皮膚に住みつくカビ(水むし,たむしなど)

 講師:高橋朱美( 平成11年7月27日講演)


[はじめに]

カビの中には,人間の皮膚にくっつき,悪さをするカビがあります。多くの人々が悩んでいる「水むし」「たむし」などが,このカビから引き起こされる病気の一種なのです。

一般にはこれらは,かゆくて治りにくいやっかいな病気と考えられていますが,現在は良い治療薬ができ,しっかり正しく治療すれば,完全に治す事ができるようになりました。

まず,この病気が何かという事を知ることが,治療の第一歩です。(以下,このカビから起こるこれらの病気を白癬と呼びます。)

[知っておきたい基礎知識]

1.白癬の正体と実体

原因は白癬菌というカビの一種です。

このカビは皮膚の一番外層にある角質層の中で増え,水ぶくれやかゆみなどの症状を引き起こします。

自然界の中の一般のカビと同様に,この白癬菌も適当な温度と湿気のある所に増殖しやすいため,高温多湿となる梅雨から夏期にかけて悪化します。そして汗のたまりやすい所,たとえば指の間,足の裏,手の平,腋下,股などに病変は好発します。

(表1)白癬が増殖をはじめる条件
温度15℃以上
湿度70%以上

白癬が角質層へ入るには,少なくとも90%以上の湿度が必要と言われています。

※ 6月の靴をはいている時の指の間(趾間)における温度と湿度

  • 平均温度 35℃
  • 平均湿度 97.9%
2.白癬の種類
  • (1) 足白癬(水むし)
    • (1) 趾間型
    • (2) 小水疱型
    • (3) 角質増殖型
  • (2) 爪白癬(つめ水むし)
  • (3) 手白癬
  • (4) 頭白癬(しらくも)
  • (5) 体部白癬(たむし)
  • (6) 股部白癬(いんきんたむし)
(表2)足における白癬の部位別初発発生率
趾間73%
足底・足縁19%
2%
3.足白癬と類似の皮膚疾患
(表3)
趾間型接触皮膚炎(かぶれ),湿疹,紅色など
小水疱型掌蹠膿疱症,汗疱,接触皮膚炎,湿疹,疥癬
角質増殖型ヒビ,アカギレ,胼胝性湿疹,先天性手掌足蹠角化症,掌蹠膿疱症など
4.白癬の診断
  • (1) 視診
  • (2) 検査
    • (1) 顕微鏡検査
    • (2) 培養
5.白癬の治療
  • (1) 外用療法(塗り薬)
  • (2) 内服療法(のみ薬)

爪,毛,角質増殖型の足白癬は,内服療法が必要

(表4)内服を続ける期間
頭白癬約2ヶ月
手爪白癬4〜6ヶ月
足爪白癬6〜12ヶ月 またはそれ以上

☆ 危険な民間療法

6.白癬治療における心得
  • (1) いちがいに白癬と決めつけない
  • (2) 患部はいつも清潔に乾燥させる
  • (3) 根気よく治療を続ける
  • (4) 薬の塗り方
    • (1) 適量を必要回数だけ塗る
    • (2) 皮疹より広めに塗る
    • (3) 風呂上がりに塗るのが効果的
    • (4) 塗り薬が強くしみたり,はれが強い時は中止し,すぐ医師に相談する
    • (5) 皮疹が良くなってもしばらく塗り続ける
  • (5) 再感染防止

※ 白癬の治療と予防の「かきくけこ」

  • 「か」…乾燥させること
  • 「き」…きれいにすること
  • 「く」…くすりを使う
  • 「け」…検査をして
  • 「こ」…根気よく治療を続ける

白癬の患者さんは,日本の家屋が気密性に富み冬でも暖かい建築になってきた事や,ルーズソックス・ブーツといったファッションなどの理由により近年増えており,白癬は多くの人々を悩ませている厄介な病気です。そして一度罹患したならば,なかなか治らないとか,毎年梅雨から夏になると再発を繰り返すということがあるのも事実です。完治する為には,白癬の実体および治療への正しい理解と,それに対する根気を持っての取り組みが必要です。

(1)白癬は白癬菌が皮膚の外層である角質層に浸入する事により感染が成立し,そしてその浸入には高湿度が関与している為,局所の乾燥が白癬の感染防止や治療においては必要である事,(2)角質層が新陳代謝で完全に新しくなるのに約三ヶ月はかかる為,症状が無くなってから更に三ヶ月以上は外用を続ける必要がある事,(3)爪や毛,角質増殖型の足白癬などは角質が厚い為,外用剤では薬剤の浸透が困難で内服が必要であり,またその内服にはある程度長期に渡る継続が必要である事,(4)皮膚病には類似の皮膚疾患が多く,一概に白癬と決めつけず確定診断には検査による白癬菌の検出が必要である事,(5)一度治癒してもまた白癬菌を拾わない様にする再感染に対する注意が必要な事,以上のような完治する為の治療への心得を知り,本気での治療への取り組みが必要です。「やる気で治せば治る。」と言うのが,白癬の治療の実体という訳です。