気をつけよう,子どもの事故

 講師:永井秀( 平成12年12月26日講演)


わが国は戦後、栄養状態や衛生状態の改善、小児医療の進歩、予防接種や乳幼児健康診査など多くの母子保健施策が実施され、その結果多くの疾病が克服され、乳幼児死亡率は世界で最も低い国となりました。

しかし、平成10年の人口動態統計を見ると、保健指導により、減らせる可能性のあるものの一つとして、「子供の事故」が挙げられています。また子供の死因順位(表1)の1歳から14歳において、不慮の事故が死因の第1位を占めています。

このような背景から、最近、子供の事故に対する予防の重要性がさけばれています。

<子供の事故の種類>

子供の事故の種類は、数え切れない程あります。事故で、まず思い出されるのが交通事故ですが、そのほかに多いものとして異物誤飲、外傷、熱傷、転落、溺水、窒息、気管内異物などがあります。

<子供の事故の頻度・特徴>

子供の事故の数も、小さいものまで入れれば無数にあります。また程度も、無処置で放置できるものから死亡事故まで様々です。ある調査で、一人の死亡事故があると、その背景には、事故で数千人が医療機関を受診しており、更に家庭内での処置または無処置の事故が数十万件あるとのことです。

また子供の事故では、年齢が低いほど危険率が増すことが分かっています。また不慮の事故で亡くなる子供の数は年間千人以上です。その中で死亡数の多い事故は、交通事故、溺水、窒息です。

子供の事故は、年齢や発達段階と関連があります。(表2)例えば窒息事故は、0歳児に多く、新生児期では柔らかい布団や吐乳が原因の大半ですが、1歳を過ぎるとナッツ類などによる気道異物での窒息が目立ってきます。また乳用期後半になってハイハイやつかまり立ちができるようになると浴槽での転落による事故が増え、2歳以上になり走ったり、登ったりできるようになると交通事故や階段やベランダからの転落事故が目立ってきます。

<家庭内での危険な場所>

本来家の中は安全な場所であるはずですが、乳幼児の事故は意外にも家庭内で起こることが多いのです。ある調査では、1〜4歳でおきた事故の54%が室内で起きています。家庭内での危険な場所を少し挙げてみます。

●浴室

家庭内で最も危険な場所です。浴槽内へ転落しての溺水事故、熱湯や熱い蛇口での熱傷事故、ぬれたタイル床ですべっての転倒事故などがあります。また洗濯機の洗濯槽をのぞきこんでいて転落しての溺水事故も起こり得ますので、洗濯機の周囲に踏み台となるような椅子などを置かないようにしてください。

●台所

台所も家庭内で事故の多い場所です。台所は、暑い料理や飲み物、熱せられた鍋、電気釜の蒸気などによる熱傷事故の多い所です。熱傷の他に、台所は包丁による切創事故も目立つ場所です。

●ベランダ

ベランダや窓からの転落事故は骨折や頭部打撲など重大な事故につながる危険が大きいので気をつける必要があります。ベランダの柵に横柵があると、そこに足をかけてよじ登り転落することがあります。またベランダの柵の前に置いた箱やビールケースを足場にして柵を登り転落することもありますので、柵の所に台となるものを置かないようにしてください。ベランダに置いてあるエアコンの室外機も足場にあんるので注意してください。

 

次に代表的な不慮の事故として、誤飲、熱傷、溺水についてその対応も含めて少し述べてみたいと思います。

(1)誤飲

誤飲とは、本来口にするべきでないものを飲み込んでしまう事故のことです。誤飲物質として圧倒的に多いものはタバコです。タバコに続いて医薬品、化粧品、洗浄剤、文具の順になってますが、あらゆるものが誤飲物質となり得ますので、口に入れるようなものはきちんと管理してください。また誤飲物質は年齢によって違ってきます。0歳児ではタバコが、誤飲物質の約60%を占めています。1歳児でもタバコが第1位ですが、2歳児になると第1位は医薬品となり、タバコは第二位となります。また3歳児以上になるとタバコは誤飲物質の中で5%以下に激減します。

誤飲を起こした際は、基本的には医療機関を受診すべきですが、嫁的での最も良い処置としては、水か牛乳を飲ませて吐かせることです。しかし誤飲物質によっては、牛乳を飲ませない方がいい場合、また吐かせてはいけない場合があります。

<牛乳を飲ませてはいけない場合>
  • ナフタリンやしょうのうなどの防虫剤は、脂肪に溶けやすく、牛乳を飲ませると毒物の吸収を早めてしまうことがあります。
<吐かせてはいけない場合>
  • 意識が混濁しているとき…窒息したり気管に入ることがあるため。
  • 石油製品(灯油、シンナー、ベンジン)…気管に入りやすく、誤嚥性の出血性肺炎を起こしやすい。
  • 漂白剤、酸性やアルカリ性の強い洗浄剤…食道を通過する際に火傷をおこすため、吐かせると更に病状が悪化するため。
  • けいれんを起こしたり、起こそうとしている時…このような時に吐かせようとすると、けいれんを誘発したり、気管に誤嚥する危険があるため。
(2)熱傷

熱傷は、浴室、居間、そして台所の三箇所で起こることが大半です。

この中で台所は、前にも述べましたように熱傷事故の最も多い場所です。天ぷら油を使用中は油がはねることが多く、特に注意が必要です。また電気釜やポットの蒸気口は、その音や出る蒸気に子供が興味をもって近づきやすいので、置き場所を工夫してください。ガスレンジの上の鍋の取手に触り、熱い料理をかぶって重大な熱傷を起こすことがあります。ガスレンジの上の鍋の取手は、手前に向けて置かないようにしましょう。食道のテーブルでは、子供がテーブルクロスを引張って、テーブルの上の物を落として熱傷を起こすこともあります。乳幼児のいるご家庭ではテーブルクロスを使わないようにしてください。

このように家庭内では、色々な熱傷の危険が潜んでいるため、日頃から注意を払ってください。

しかし、もし熱傷事故をおこした時は、熱傷範囲が広い場合は大至急医療機関を受診してください。それ以外の時は、まず流水で20分以上冷やし、その後受診しましょう。また服を着たままお湯がかかって熱傷をおこした場合は、無理に脱がすと皮膚がはがれてしまうことがあるため、服の上からシャワーや流水で水をかけて冷やしてください。薬草や色の濃い塗り薬などを塗ってしまうと、傷面の状態が分かりにくくなるため使用しない方が良いでしょう。

(3)溺水

溺水は、前述しましたように交通事故と共に死亡率の高い事故です。

15歳未満の溺死者は年間300人前後になります。

2歳未満の子供の溺死の約8割が浴槽で発生しています。最近の住宅は、浴室の浴槽の床からの高さが昔に比べて低くなってきており、転落しやすい傾向にあります。ある調査では、床から浴槽の高さが50cm未満のものは転落しやすい結果が出ています。また同じ調査で、入浴後に毎日排水している家庭は約3割でした。少なくとも2歳以下の子供のいる家庭では、入浴後は必ず浴槽のお湯を流しておく習慣をつけてください。

他に浴室での事故防止策として、目を離したすきに乳幼児が入れないように浴室の入口に鍵をかけたり、親子で一緒に入浴した時は必ず子供を先に浴室から出すことも大切なことです。

以上子供の不慮の事故について少し記載しましたが、子供は好奇心の固まりであり、あらゆる場所で、予想のつかないような事故が起こり得ます。日頃から子供の事故のことを念頭に置いて、少しでもお子さんを事故から遠ざけるように心掛けてください。